私は1974年以降、長年にわたってインドを巡り、インド美術の調査、研究を続けてきた。広いインドの中でも仏跡に立つと、いつも深い感慨を覚える。実際、その場所に行ってみると、2500有余年の時空を超え、仏陀を身近に体得できる。私は巡拝することにより、仏陀の生活が観想でき、それが「仏伝図」を描いていく基礎となった。初渡印以来10年を過ぎてから仏伝図を描き始め、ライフワークとして今日に至っている。
「アーナンダとマータンギー」は舟橋一哉博士の米寿記念の依頼を受けて描いた。このテーマは厳格な階級制度に対する仏教教団の姿と感情の虜になった若い女性を法の世界に導き入れる仏陀の説法の本質を感じることができる。美男であったアーナンダと、恥じらい目をそらしているが、意志の強いマータンギーの表情に苦心した。(1997年作) |