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輝く☆同窓生

No.144(2019年)

松尾 浩久 さん
(2000年度・文学部社会学科卒)
〈NPO法人HEROES 理事長〉


美濃部 裕道 さん
(2009年度・文学部社会学科卒)
〈NPO法人CILだんない 代表〉
インタビュアー
 無盡燈編集委員 西本 祐攝(大谷大学講師〈真宗学〉)

「役に立つ、立たないという社会の尺度を超えて、
その人がその人らしくまっすぐ道を歩んでいける社会を実現していく」

西本 今回の「輝く 同窓生」では、「NPO法人CILだんない」(滋賀県長浜市)を会場に、NPO法人を立ち上げて活躍されている2名の同窓生のお話を伺いたいと思います。おひとりが松尾浩久さんです。「NPO法人HEROES」の理事長をお務めになっておられます。もうおひと方が美濃部裕道さんです。「NPO法人CILだんない」の代表をお務めになっておられます。お二人に、学生時代や現在のNPO法人での活動などをお聞かせいただきたいと思います。

松尾 私は大谷大学(以下、谷大)文学部社会学科で4年間学びました。当時は介護保険が始まる直前で、介護福祉士資格などがとても盛りあがっていたように思います。
谷大では、各地方から集まってきた学生たちと交流ができたこともあり、「人との関係」について非常に興味を持っていました。また、サークルではボランティア研究会(以下、ボラ研)に所属し、そこでボランティア活動に携わらせていただいたことも、現在の活動のきっかけになっていると思います。ボラ研では、聴覚障がいのある子どもたちの居場所作りをする活動だったのですが、それまで障がいのある方と接する機会は少なかったので、すごく衝撃を受けました。それと同時に、障がいがあることは特別なことではないと感じ、ギャップがあるようでギャップがない…みたいな違和感を持ちながら活動をしていたと思います。


松尾 浩久さん

西本 4年間、具体的にどういうかたちでサークル活動に臨まれていたのかお聞かせください。

松尾 結構まじめに取り組んでいたかと思います(笑)。毎週、火曜・金曜にミーティング、そして土曜に、聴覚障がいのある子どもたちと地域の子どもたちが交流するための支援をしていました。

西本 私も実は同じボラ研OBなのでよく知っているのですが、松尾さんは部長の重責も担われましたよね。実際サークルを取りまとめていく中で学ばれたことはありますか。

松尾 学んだことは多いです。当時、部員数は50人程で、出身地や年齢や性格も様々な中、どのように組織を運営していくかを経験できたことはとても勉強になりました。当時は必死で、「やらなければ!」という思いが強かったと思います。

西本 責任の重い立場で、後輩からも頼られていましたよね。学外でも活動されていたかと思います。

松尾 学生時代は、聴覚障がいのある方が入所されている施設で宿直のアルバイトをしていました。また、第4学年以降は地域の学童クラブのボランティアや、知的障がいのある方の余暇を支援するボランティアにも参加させていただきました。

西本 次に美濃部さんの学生時代の様子や、授業・クラブ活動等についてお聞かせください。


美濃部 裕道さん

美濃部 私は、自分の障がいについて知りたい…というか、自分の障がいが何なのか、どこに問題があるのかという点に以前より興味があり、谷大の社会学科社会福祉学コースに進学しました。大学進学前に通っていた養護学校の高等部時代、筋ジストロフィーの障がいがある同級生と共に福祉を学んで「将来何かやりたい」と夢を共有したのも進学理由の一つです。
谷大で福祉を学ぶ中で、「仏教・真宗の教え」と「障がい者の生活のあり方」についてより深く学んでみたいという思いがあり、私と同じように障がいのある方々との勉強会を開くことで、色々な障がいの考え方や、真宗の教えを通して、生きにくい障がい者の生活をどう捉えるかを考えることができました。
また、「人間学」や真宗・仏教の教えの授業の中で、西本先生の授業も受講させていただき、より様々な学びを深めていくことができました。

西本 私が教員になりたての頃の授業を苦労して聞いていただいていたのかな。仏教や真宗の視点からこういうことが学べたということがありましたら教えていただけますか。

美濃部 それまでは、障がいは「持ってはいけないもの」とか、「無かったら良い」という思いがありました。でも「真宗学」や「人間学」の学びを通して、障がいは「持っていてもいい」のではないか、逆にそれをどのように社会の中で、自分として表現していけるかという考え方に、シフトチェンジできた気がします。

西本 ご卒業後、お二人ともNPO法人を立ち上げられましたが、その経緯や、どういう願いを持って踏み出されたのかをお聞かせください。

松尾 卒業後、社会福祉法人に入職したのですが、学生時代にボランティアをしていたご縁もあり、知的障がいのある方の支援に十数年携わらせていただきました。そこでは、突然大声をあげるなど、行動に派手さがあり、対応が難しい方を支援させていただくことが多かったです。プロの支援者でも関わり方が難しい方々に、社会的に支援する場を一つでも増やしたいという思いでNPO法人を立ち上げました。
「NPO法人HEROES」という名称ですが、“HERO”自体は「主人公」というような意味合いで、「利用者」を指しています。障がいのある方一人ひとりに人生があるので、その人生をその人らしく過ごしていくために、私たちは脇役となって舞台を整え、彩っていくことができたらいいなと思っています。ただその反面、私にも私の人生があり、時には彼らに私の人生を彩ってくれる脇役に入っていただきたいな、という相互性みたいなものを大事にしたいと思っているので、“HEROES”という複数形にしています。


西本 祐攝 編集委員

美濃部 立ち上げの理由は、この地域で居宅サービスがほとんど無かったためです。京都であれば何十社というなかから、居宅サービスを選べるのに対し、この地域は田舎なので数えるほどしかなく、しかも高齢者向けのサービスをしているところがほとんどでした。
先ほど松尾さんが「主人公」とおっしゃいましたが、このままでは私たちが自分の人生を自分らしく歩んでいけないということで自らが立ち上げました。ちなみに、先ほど養護学校での同級生の話をしましたが、今も彼と一緒に活動しています。
名前の「だんない」には二つの意味があります。この辺りの方言で、何か心配ごとがあっても「だんないで(=大丈夫)」という言葉で励まし合うことと、「段がない社会」、つまりバリアフリーですが、物理的なバリアだけではなく、人の心と心との関わりの壁をも取っ払いたいという思いで「だんない」という名称にしました。

西本 NPO法人を実際運営されていく上でのご苦労や工夫されていることを教えてください。

松尾 NPOですので、地域の方々の支えがないと法人として成り立っていきません。そういう意味では協力者がいるのはすごく励みになっているなと日々感じています。
ただ、想いを持って法人を立ち上げたのですが、理想と現実が常に表裏で、理想通りではないことの方が多いです。理想と現実とのズレを感じ続けていると、しんどいなと思うときがあります。そんな時、周りで支えてくださっている方々が本当に手を差し伸べてくださるので、まだ6年目ですが、何とかやってこられたと思います。

美濃部 先に述べた地域的なことに加え、目的や理念はもとより、職員や利用者を地域の方々にどう浸透させていくかに苦労しています。
また「だんない」には、「重度障がい者の自立生活を保障させること。」、「社会モデルの考え方に変革していくこと。」(※社会モデル=障がいは個人の責任ではなく、社会が作り出す障壁に問題があること)、「地域とのネットワークをつくること。」という三つの理念があるのですが、この理念をどのように具現化し、メンバーが共通理解していくかが課題です。

西本 活動していく中で、大学での学びが生きているなと感じたことはありますか。

松尾 本当に多くのことを学べる場所でした。当時の谷大のキャッチコピーが「人間が大好きです。」だったのですが、いいキャッチフレーズだなと思っていました。人とどう向き合うのかであったり、人をどう許すのかであったり、あと自分自身がどう生きるのかみたいなことを、当時はそんなことまで思っていたわけではないのですが、何か自問自答できる機会を得られる場であったと思います。

美濃部 私が入学した当時は、木村宣彰先生が学長だったのですが、入学式の挨拶の中で「大谷大学は役に立つ人材は作らない。役に立つ、立たないを超えて一筋の道に生きる人間を作る、育てる」、「夏炉冬扇」というように、一見役に立たないようでも一筋に歩み続けられる「自己の信念の確立」、自分の思いを一筋に突き進む大事さというか、社会でどう役に立つかよりも、人間として自分がどう信念を持って生きるかということが大事だとおっしゃったことに感銘を受けて「これだ!」と、今も谷大で学んだこととして大事にしています。

西本 実際の活動ではなかなか難しい面もあるとお聞かせいただきましたが、それぞれ今後どのように発展させていきたいとお考えでしょうか。

松尾 実は、発展させたい気持ちと反して、発展しない方が良いのではないかという気持ちもあります。というもの、社会が変われば障がいのある方が生きやすくなる、社会が適切な方向に変われば障壁というものはなくなるという考え方があり、要は、福祉の仕事が成り立っている状況が社会としてどうなのかという思いがどこかにあるのです。だから発展していいのかみたいな…。
しかし、私たちにできることとして、自閉症や発達障がいのある方の理解を広く進めていくことや、啓発していくところには力を入れたいと考えています。

美濃部 私も松尾さんのお話は了解していて、障がい者の中には、やはり東京や大阪に移住したほうが生きやすいので引越しすればいいという方や、ここに生まれたので施設に入ればいいという諦めを持つ方もいます。そういう方をなくすために「社会を変えていく」という思いで、諦めずに信念を持って「だんない」を発展させていきたいと考えています。

西本 松尾さんは京都の西陣を拠点に活動されていますが、西陣を拠点に選ばれた理由、また、活動の中でビール製造をされていますが、なぜビールを製造するようになったのかということを教えていただけますか。

松尾 先ほど美濃部さんのお話にもありましたが、都会にはいろいろなものがあって田舎にはないということですが、都会には都会の生き辛さがあると思います。前職の時、都会での生き辛さを感じている人を目の当たりにした経験があり、その目の前にいる人に手を差し伸べないといけないと思ったのが大きなきっかけです。
私たちのNPO法人は、主たる対象を成人期(20代~30代)で障がいのある方としており、働く場の提供としてビールを製造しています。同じような事業所としてパンやクッキーを販売されている所を見かけることがあると思うのですが、それらと同じく障がいのある方の仕事を生み出すためにビールを製造しようと思いました。

西本 施設の利用者の方の雇用・仕事を生み出すということで着想されたということですね。それともう一つ、農福連携事業にも取り組んでおられるということなのですけれども、その動機や今後の目標についてお聞かせください。

松尾 ビール造りでは、重度の知的障がいがある方にビールのラベルを貼っていただいたり、中には醸造過程にがんばって取り組んでいただいている方もおられます。
ビールの原材料は、今はほぼ100%海外産ですが、現在、社会的に国産化への期待が高まっています。なかなか担い手の農家さんがいない状況ですが、農家と福祉事業者が協力し合い、人材不足のところに障がいのある方がどんどん入っていって、国産のものを造っていこうという取り組みが始まりつつあります。私たちも昨年の秋に、原材料から醸造販売まで福祉事業所がすべて関わって「ふぞろいの麦たち」というビールを完成しました。今後は、この農福連携の取組みを地産地消として、さらに充実させていくことが目標です。

西本 美濃部さんは長浜のご出身ですけれども、ここで活動を始められた理由や、この地だからこそできることなどがありましたら教えていただければと思います。

美濃部 滋賀県の湖北地域では、宗教の信仰の篤さや伝統文化の深さがあるのですが、それに加えて、「社会モデル」の革新的な、先進的な考え方を取り込むことで、障がい者と健常者が共生できる新しいあり方が生まれるのではないかと私は考えています。そういう新しいあり方を地域規模で発信していくことで、他の地域も良くなるといいなと思っています。

西本 歴史的にも蓮如上人との関わりが深い地で、真宗の信仰が篤いところですし、長浜の地ならではの人と人とのつながりの深い所であるとか、そういうところで広がりをもって活動していきたいということですね。
「だんない」では、居宅介護事業「さざなみ」も運営されていますが、この運営について教えてください。

美濃部 「さざなみ」は障がい者福祉サービスの一つとして、居宅介護事業をしています。重度障がいのある方の居宅訪問サービスです。24時間介護を必要とする利用者もいますので、人材不足という問題に直面しており、地域に大学もないので若い人を呼び込みにくい状況です。ただ、私たちの人生をサポートするためには必要なことなので、ぜひ谷大からもスタッフとして来ていただけるとありがたいと思っています。

西本 ありがとうございました。最後に、今日お互いのお話を聞かれたところで感想などを一言ずついただければと思います。

松尾 私たちは京都市内で事業をさせていただいており、都会という点では便利なのですが、やはり少し堅苦しさや、のびのびしていないところがあるので、長浜に遊びに来られたらと思います。「だんない」で民泊などをしていただけたら嬉しいなと思うのですけれども、やってくれませんか?

美濃部 はい、考えます。この奥に泊まれる施設があるので、いつでも来てください。その時にはこのビールを飲んで。

松尾 そのときにはビールサーバーを背負って、美濃部さんのところでビアガーデンをしましょう!そこへ現役の谷大生に来てもらうのも良いですね。一度そういう会を開きたいです。

西本 楽しそうですね。美濃部さんいかがですか。

美濃部 私もこの機会をいただいて谷大の同窓生同士、同じような取り組みをされておられることにうれしく思いましたし、「だんない」は将来的に居酒屋みたいなことをしたいなと頭の片隅にあるので、そのときにはぜひこのビールを置かせていただけるとありがたいです。

松尾 いいですね。もう専属で置かせてもらいます。ありがとうございます。

西本 今回は、お二人の方のたいへん貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。今、大谷大学は、「Be Real−寄りそう知性」という新しいメッセージを打ち出しています。一人ひとりの人間の現場や社会の問題に足場をおいて、本当に学ぶべきことは何かということを考えていく大学でありたいと、そして、決して一人の人も見捨てることなく寄りそっていく人になってほしいという願いがこめられています。そのメッセージにも通じることを、すでに実践されているのだなということを今日のお二人のお話から聞かせていただきました。今後とも、松尾さん、美濃部さんの活動を応援しております。本日は、本当にありがとうございました。

NPO法人CILだんない
(2010年12月3日設立)

滋賀県長浜市木之本町千田681-4
TEL:0749-50-3639
ホームページ:http://cil-dannai.jp/
主な事業内容:CIL(自立生活センター)、居宅介護事業「さざなみ」の運営、自立生活体験室の運営、ピア・カウンセリング事業、障害観変革(講演等)事業等、広報誌「だんないの道」発行

沿 革
2010年8月 10名の方々に賛同をいただき、NPO法人設立総会を開催。
12月 「NPO法人CILだんない」として認証
2011年4月 事務所のバリアフリー工事が完了し、居宅介護・重度訪問介護事業所を開所
2013年4月 湖北自立生活塾を開催(自立支援協議会と共催)
2014年11月 第1回だんない祭り開催(以降、毎年開催)
2015年8月 第1回だんないちょこっと祭り(こどもまつり)開催(以降、毎年開催)
2018年6月 新事務所開設

NPO法人HEROES
(2013年10月15日設立)

京都市上京区竪門前町414西陣産業会館115
TEL:075-366-3627
ホームページ:https://www.762npo.jp/
主な事業内容:就労・福祉就労・日中通所施設・ヘルパーの派遣、西陣麦酒醸造所運営

沿 革
2013年10月 特定非営利活動法人HEROES設立
2014年1月 デイセンターHEROES(生活介護)開設
2017年3月 ヘルパー派遣HEROES(居宅、行動、重訪、移動)開設
10月 西陣麦酒醸造所(生活介護の授産科目)
2019年3月 京都式農福連携助成金報告会を開催

西陣麦酒オンラインショップはこちらから
→ https://bakushu.base.shop/

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