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同窓通信

No.145(2020年)

人生に彩(いろどり)を
磯部 加奈子
(サンコーインダストリー株式会社)

 思い返すと、第2学年から始まったゼミでの経験が、大いに影響を及ぼしている。

 まずは「環境」。同級生の数は少なかったが、幸いにも「歴史が勉強したくて進学したメンバー」に恵まれた。研究に没頭しても笑われることなく、ふとした疑問や閃きをすぐに話し合え、研究室に行けば誰かに会うことができた。「興味・関心と一心に向き合える」という豊かな土壌があるからこそ、人は育つことができると実感した。

 そして「知識」。研究旅行で出雲に行った際、荒神谷遺跡と国分寺跡に大いに感動したことを覚えている。紙面をなぞるだけでは解らない「行って、見て、体感してから考える」ということ。そして「知識があれば“ただの田舎道”が“千年の時を経た世界”に変わる」ということ。「知っている人しか享受することができない世界」は、そこかしこに存在していることを知った。

 谷大は志望校ではなかった。だから4年間はなんとなく過ぎていくんだろうと思っていた。今にして思えば、それが大きな間違いであることがよく判る。「ここに通いさえすれば、こうなれるはずだ」と、自分の未来を人任せにしていただけにすぎない。どこにいても何をするにも、自分から働きかけなければ何も得られないのだ。

 現在は、企業の新卒採用・内定者研修担当として、採用戦略を立てて遂行したり講演や研修を行っている。その中で、特に就活前の学生には「英語学科の人が大学時代に学んだことは“英語”ではありません」と話している。同じ“英語”であっても、“翻訳”に尽力してきた人は、粘り強さや表現力・伝える力が鍛えられたはずである。また“会話”に尽力した人は、母国語以外の言葉で文化も歴史も違う人たちと交流を図れる社交性や相互理解力が備わったはずである。そういった「英語を通じて磨かれたあなた」を教えてほしいと伝える。すると彼らの表情は一気に緩む。「大学の科目を仕事に活かさなければならない」という魔法を解いてあげたい。私は、学科は学科、部活は部活と切り離しては何も活きてこないと考える。学科に所属している私も、部活をしている私も、最終的に“私”として繋がるから、様々な場面で「物事を通じて磨かれた私」が活きてくるのではないだろうか。

 数年前、国家資格キャリアコンサルタントに合格し、今は、TA(交流分析)とNLP(実践心理学)の勉強をしている。これらはきっと、知らなくても十分生きていける。また、現代では検索すれば何でも手に入る。何もしなくてもそれなりに生きていけるだろう。

 だからこそ私は、世の中を知りたい、知る人にしか見えない世界を見たい、より濃密な人生を送りたいと思う。そのためには、誰かが何かを準備してくれるのを待っている時間がない。未来を創り、人生を彩るのは、自分の働きかけ次第なのだ。

(2008年度文学部史学科卒)
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