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大谷大学と私

No.146(2021年)

「大谷大学での学究生活と宗教民俗学
〜五来重博士に導かれて」
名誉教授  
豊島 修

 私が大谷大学史学科に入学したのは,1963(昭和38)年4月。本学の史学科(国史学専攻)を選んだのは、国史学の先生方の中に五来重博士(中世史、民俗学専攻)がおられたからである。私は高校時代、NHKのラジオ放送で柳田國男先生の日本の昔話研究とともに、五来先生の仏教民俗学の話を拝聴していた。そして「近世民衆(農民)の精神生活」、特に「神事と仏教民俗」を具体的に学びたいという思いを持っていた。

 3回生の専攻分野決定で、五来先生のゼミへ所属することができた。もっとも3・4回生の演習授業では当初の思いとは異なり「大塩平八郎の乱と思想史研究」を論考した。この研究は一応満足した内容であったが、入学当初から思っていた「近世民衆の精神生活」研究とはほど遠かった。有難いことに五来先生から大学院に進まないかとお声掛けをいただいた。そこで父親の許可を得て、同大学院(修士・博士課程)に進学することになった。

 あの頃、周りには学問探究への意識が高い、熱心な先輩方ばかりで、私も早くあのようにならねばと大変な刺激を受けたものであった。修士課程では、最初に五来重先生から西岡虎之助博士の『民衆生活史』研究(昭和23年刊)を読むように薦められたことが思い出される。「反骨の歴史家」といわれた同博士からは、「民衆の生活」に焦点をおいた歴史こそが本当の歴史であるということを学んだ。

 民衆の精神生活(神事・仏事・俗言)と年中行事、仏教講、民間芸能、口承文芸などの諸史料と民俗資料を求め、畿内や信濃・秋田地域など各地を積極的に調査(フィールド・ワーク)した。文献史料に記されたことを体系的に整理・分類して比較類推するだけでなく、「民俗伝承」を有力な資料として活用すること。それもまた五来先生から学んだことであった。

 こうして地域史料の調査を含め約三年をかけて修士論文を作成し、さらに三年間の博士課程へと進んだ。充実した研究生活を送るうち、大谷大学特別研究員に採用していただき、文学部助手、専任講師となり、国史学基礎講読や民俗学を担当することになった。1980年のことである。

 その間、私の研究対象は、仏教史・日本文化史の中でも重要な「修験道史の研究」が多くを占めるようになった。その背景にはやはり五来先生の御研究の影響があった。仏教民俗学研究が日本宗教民俗学という学問に大きく発展した契機は、先生が『熊野市史』(三重県熊野市、三巻書)の編纂を通じて「古代日本人の海の宗教」に着目されたことであろうと拝察する。

 2007年10月、私や木場明志教授、OBの鈴木昭英氏・日野西真定氏、根井浄氏そのほか卒業会員とともに、五来先生がご健在のころに念願されていた「日本民俗学会」の本学開催が実現できたことは誠に感慨深く、僅かでも先生への御恩返しをさせていただけたならば光栄である。

 大谷大学では多くの恩師に恵まれただけでなく、志を同じくする良き先輩や良き友人たちに支えられた。教鞭を取ることになってからは学生たちにも恵まれた。1997年、慢性腎不全の悪化により人工透析に多くの時間を割かれながらの通勤となってしまってからも、本当に多くの方々に助けていただき、無事定年を迎えることができた。御恩をいただいた方々への感謝をあらためてこの場で申し上げたいと思う。

 また、コロナ禍において学生諸君がのびのびとした大学生活を送ることが困難な状況であることに胸を痛めている。一日も早い収束を願うとともに、そのような状況下においても、御縁を大切にしながら、限られた時間の中で多くの先生方の御研究に接し、生涯の宝となる有意義な経験をされることを心から願っている。

略 歴 紹 介

豊島 修(とよしま おさむ) 名誉教授

1943年9月 中国東北部に生まれる
1967年3月 大谷大学文学部卒業(国史学)
1970年3月 大谷大学大学院修士課程修了
1973年3月 大谷大学大学院博士課程満期退学
1976年4月 大谷大学文学部助手
1980年4月 大谷大学文学部講師
1989年4月 大谷大学文学部助教授
1994年4月 大谷大学文学部教授
2003年3月 博士(文学)学位取得(大谷大学) 「修験道史研究と庶民信仰史論」
2009年3月 定年退職
2009年4月 大谷大学名誉教授
2009年4月~2017年3月 京都女子大学教授(国文学)

【専      門】 日本宗教民俗学
【著書・編集・論文】
『熊野信仰と修験道』(名著出版)
『死の国・熊野 ─日本人の聖地信仰』(講談社)
『現世と来世の安楽を祈る聖地』(朝日新聞社)
『紀伊山地の歴史と文化について』
  (「紀伊山地の霊場と参詣道」世界遺産登録記念 特別展
  「祈りの道~吉野・熊野・高野の名宝~」)
『熊野信仰史研究と庶民信仰史論』(清文堂出版)
『熊野信仰の世界 ─その歴史と文化』(慶友社)  その他

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