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輝く☆同窓生

No.147(2022年)

田口 貴大 さん
(2009年度・文学部文学科卒)
〈京都市教育委員会(小学校)〉


萬木 宏哉 さん
(2013年度・文学部社会学科卒)
〈社会福祉法人七野会〉
インタビュアー
 無盡燈編集委員 釆睪 晃(大谷大学教授)  
対談日 2022年2月

「情報交換の場、学び直しの場、皆の熱意を感じる場
これからの職域同窓会の可能性を考える」

─ 職域同窓会の「教職」実行委員長の田口貴大さんと、同じく「福祉」実行委員長の萬木宏哉さんに来ていただきました。学生時代から今のお仕事にどうつながったのか、教えてください。


萬木 宏哉さん

萬木 高校生の頃から何となく福祉には興味がありました。同時に、演劇や芝居にも興味があり、そこで、演劇サークルがあることを条件として福祉の勉強ができる大学を選んだところ、大谷大学に入学することになりました。しかし、学生時代は、ほとんど演劇部の活動ばかりやっていて、福祉の勉強が楽しくなりはじめたのは第二学年の頃です。志藤修史先生のゼミに入っていたのですが、志藤先生は、社会福祉協議会とのつながりが深く、夏休みに南丹市社会福祉協議会の生活実態調査員として参加させていただく機会がありました。そこで地域の家を一軒一軒訪問して、その地域で生活する上での問題や課題など、そこで生活する人の生の声に触れることができたんです。特に南丹市の美山町はお年寄りが多く、福祉はおもしろいんだと感じ始めて、だんだん高齢者福祉の方に興味が出てきました。そうしたら志藤先生のゼミの先輩がたまたまアルバイトをしていた認知症高齢者グループホームにアルバイトで入ることになり、どんどん福祉にのめり込んでいって、それで今の職場に就職しました。

─ 福祉のどんなところに興味をお持ちになったのですか。

萬木 福祉って幅広いじゃないですか。児童・障がい者・高齢者・地域といろいろな分野がありますが、僕にとってはお年寄りとの関わりが何かほのぼのとしていて、そういう部分がマッチしたんでしょう。フィールドワークでお世話になった田舎のお年寄りの人たちとの関わりの中で、もっと高齢者福祉を知ろうと思いました。

─ そうすると、演劇も福祉もどちらも大学に入る前からということなのですね。うことなのですね。
田口さんは教職を目指して入ってこられたのですか。


田口 貴大さん

田口 もともと、私はまったく国語ができませんでした。何を言っているのか全く分からなかった古文が、高校で出会った先生の影響でおもしろいと思えるようになりました。自分もそんな先生になれたらいいなと、中学・高校の国語の教員免許が取れる文学科に入学しました。入学後、神戸親和女子大学と提携した通信教育で小学校教員免許が取得できるという制度ができ、取得しました。通信教育とはいっても、体育や音楽など実技系のスクーリングもあり、かなりハードでした。教員免許のことばかりで、気がついたら四年間が終わっていました。その時、一緒に勉強してきた仲間とは今もつながりがありますし、良い出会いだったと思います。

─ 一緒に勉強してきた仲間とのつながりというのは、萬木さんもありますか。

萬木 そうですね。大谷大学の社会学科社会福祉学コースの人たちは、やはり福祉の現場に就職される方が多いです。別の法人の友人と会うと、お互いに「しんどいな」と愚痴を言ったり、「こんなことを頑張っている」という話をしてお互い高めあっています。


教員を目指す後輩にアドバイス

田口 私も、同級生の何人かは、同じ京都市の小学校に勤めているので、研修で一緒になることもあります。一緒の学校に勤務する可能性もあるので心強いですね。もっというと、谷大の教育・心理学科を卒業した後輩が、今同じ職場にいるということもあり、谷大つながりで関係が広がっていくのは、とてもうれしいです。
 今、谷大出身の教員が増えてきているので、そのうち同じ職場に谷大出身者が何人もいるようなことだって起こりそうです。萬木 福祉の業界でも、ちょっと会話をしていると「谷大卒なんや」と言い合ったりとか、大谷大学の現役学生がアルバイトで来てくれることもありますね。そういうのは結構心強いですよね。同じ大学の卒業生ということで、最初のとっかかりができるというのは大きいですよね。

─ 大谷大学卒業後現場に立たれ、大学時代に学んだことで改めて気付いたことはありますか。


職場の様子

萬木 大谷大学って、他の大学と比べたらコンパクトな感じがありますよね。学生どうしの距離も学生と先生との距離も近いです。私の職場もわりとこじんまりしていますが、大学時代の経験のおかげで、そういう環境での人との距離の取り方みたいなところは、今の職場でもスムーズにできていると感じます。
 大谷大学にあるのは介護福祉士を養成するコースではなくて社会福祉士養成のコースです。介護の技術云々というよりは「社会福祉士とは」といったことを様々な社会問題を交えて教えてくれるのですが、社会福祉士の勉強はなんか難しいのです。けれど、福祉の現場に入ってから先生が言っておられた社会問題ってこういうことなのかといったことが、働くなかでどんどん結びついていくというか、やっと腑に落ちてくるみたいなことが多いです。


お世話になったアドバイザーの先生と

田口 文学科の授業で交流していた人たちといる時と、教職を目指していた人たちといる時とは、意識的にも違うものがありました。文学科は、国語が好きで学びたいと思って入ったところなので、自分の関心に沿った学びの場でした。文学科での学びももちろん教職に活きている部分はありますし、ある意味で期待していたとおりの方向性です。それに対して、教職を目指す人たちとの関係では少し違いました。仲間たちと一緒に勉強した教職の理論的なことは、当時はどこか抽象的なものだったのですが、現場に立っているとその抽象的な理論と具体的な状況との結びつきが見えてくることがあります。また、よく利用していた教職支援センターでは、仲間とだけの会話で終わるわけではありません。アドバイザーの先生方が仰ったことなども頭のどこか片隅にあって、先生の言葉がふっと湧いてくることがあります。
 こういったことは、やはり人数がこじんまりしている分、密に相談できる環境にあったからだと思います。ふっと何かのときに思い出されるというのは、それだけ私の深いところに刻み込まれていたんだと思います。卒業してもう10年になりますけれども、いまだに色々と感じさせられます。

─ お二人は職域同窓会の実行委員長として中心的に関わっていただいています。この2年は、コロナのために開催できませんでした。むしろ、この2年間で職域同窓会の価値を振り返ることができたかも知れません。


職域同窓会「教職」(2018年度)


職域同窓会「福祉」(2019年度)

田口 教職の職域同窓会はもう3回やりましたが、いろいろな年齢層の方が参加してくださいました。その中には、経験豊富な先生方もおられます。そこで何気なく話したことが、現場に戻ったときにこういうことなのかと気づくことがあります。
 また、公立小学校という点では同じでも、働いている自治体が違うと、色んな点でやり方も違います。自分とは違う環境にいる人と接することで、新しい発見がありました。限られた時間でしたが有意義な会となりました。逆に大学の後輩たちも参加する中で、新しいつながりができたという側面は心強さにもつながります。一年に一度しか会わなくても何かそういうつながりがあると、また次頑張ろうと思えます。

─ 教職の職域同窓会は、同窓会本部から教職に就いている同窓生のために交流の場ができないかという話があったようですね。

田口 職域同窓会のお話をご提案いただいて、開催するにあたり幼稚園・小・中・高という全体にまで広げてみることにしました。実際にそれぞれの園や学校から来てくださっていました。そういう広がりみたいなものもやっぱり重要なのかなと思います。

萬木 福祉の職域同窓会は一回しかやっていないですし、しかも2時間ぐらいの限られた時間でした。それでも、久々に会う先生や同窓生たちと話すきっかけができたのは良かったなと思いました。それと、違う分野で働く方と「こんなことを頑張ってる」、「こんなに大変なんだね」という話ができました。普段からの思いを少しでも共感し合えて、元気をもらえました。
 福祉は幅広く、私たちの生活の中でいろいろなものが絡み合っています。職域同窓会では、障がい者関係の仕事をしている方もいるし、在宅ケアの仕事をしている方もいました。
 領域の広さはかなりのものだと思います。初めて会った方で、不登校の子どもを支援するための仕事を始めようかという方もいました。そういう人も福祉で幅広く関わっている仲間なのだなと思えました。

田口 同じことは学校教育でもあるのかもしれないと思います。今、「ヤングケアラー」といった言葉が出てきています。新しい言葉が出てくるということは、新しい現実が明らかになってきたということでもあります。いろいろな背景を抱えている子どもがいるということは日々感じます。不登校のそういう支援をしておられる方が福祉の職域同窓会に参加しているということは、また教職の方とも結びつく可能性もありますね。
 そう考えると、毎年というわけではなくとも、何年かに一度は合同でやって、それぞれの分野を接続するようなことがあってもいいかも知れないですね。

─ ここ数年でオンラインという方法が急速に注目されるようになりました。オンライン飲み会とかはなさったことがありますか。


谷口教授の講演会(2019年度)

田口 あります。しかし、結局は同じものを共有していないし、何かよそよそしいというか、お酒ばかりが変に進んで酔っぱらってしまいました。やはり、参加して良かったなと思える企画があることが大前提です。2時間では物足りなかったなと思えるような、参加して良かったなという「お土産」があったらいいなと思います。
 「教職」では、懇談会の前に2018年度は岩渕信明先生が、 2019年度は谷口奈青理先生が講演してくださいました。私たちに関係のある内容だったので、よかったと思います。そのあと懇談会にも来てくださったので、さらに講演のことを聞くことができました。

萬木 私はオンライン飲み会はやったことがありません。会議とか研修はオンラインでやりますけれども。
オンラインは、年配の人たちにとってはパソコンの画面を長い間見ていることがしんどかったりするし、長時間は無理だなと思います。皆が集まった場所で先生の講義をオンラインで聞いて、その後、みんなで意見交換するのだったらやりやすいのでしょうけれど。

田口 対面ではマスクをしていますが、オンラインだったらマスクを外しています。でも、画面というフィルターを通してみると相手が何を思っているかぜんぜん分かりません。すでに気心の知れた人たちとならば、オンラインでも大きな意味があるように思いますが、小規模なオンライン同窓会と、自分の世界観を新たに構築していくような同窓会と、両方開催できるといいですね。

─ 教職の会は講演があってそのあとに懇談会でしたが、福祉の方ではどうでしょうか。

萬木 個人的には講演会があれば嬉しいです。ついこの間受けた研修で、社会学科の中野加奈子先生が講師を務めておられました。大学の先生が学生向けに話すのと、現場で働いている人向けに話すのでは、やはり内容が違います。それに、学生の頃はトンチンカンだったことが、今だったら凄く頭に入ってきたりします。ですから、講演とセットというのは、いいですね。

─ 大学での「学び直し」という言葉がありますけれども、「学び直し」の必要を感じる社会生活を送られているというのは、教員として本当にうれしいです。

田口 教師の仕事もそうですし、福祉の仕事でもそうでしょうが、人間の在り方が変わっていっています。人との関わり方は常にアップデートしないといけないですよね。あるいは、いま直面しているこの状況は一体どういうことなのかということを、ちょっと離れた視点から見直す必要もあります。でも、離れた視点から見るということは現場にいるとなかなか難しいのも事実です。そういう意味では、「学び直し」の場としての同窓会というのは大きいと思います。

─ 例えば、講演ではなく、現場で働く同窓生が報告者になってワークショップみたいな感じで開催してはいかがでしょう。

萬木 それだったらオンラインでもできそうですし、オンラインとオンサイトとの半々でもできそうですね。集まれる人は集まって、オンラインからも覗きに来る、みたいな。

田口 そういうワークショップ形式なんかは、同窓会というある程度の枠組みがある方がかえって話し易いかもしれないですね。ちょっと生々しい声が聞ける同窓会というものがあってもいいかもしれません。このコロナ禍でデメリットはたくさんありますけれども、オンラインという手段が一般化したというのは一つのメリットかもしれません。別にオンラインの方が良いとは思わないですけども、オンラインという選択肢が増えたというのは事実なので、同窓会の持ち方においてもオンラインだからこそ便利な在り方というのがあるかもしれないですね。

萬木 そうですね。いろいろなかたちで盛りあがれるようにするといいですね。

─ 職域同窓会をやってみて、具体的にどういうところが役に立ちましたか。

萬木 皆さんの熱意に触れられたというのが一番かもしれません。違う分野で働いている人たちでも対人援助に対する考え方は共通しているところが多いです。それに、やはり福祉の人は話を聞いてくれる人が多いのです。みんな話をしたいし、話を聞いてくれるし、お互いにウィン・ウィンという場でした。そういう意味では大きなメリットがありました。

田口 教職に就いている人も話好きな人が多いです。ワークショップみたいなものでそのテーマさえぶれずに決めておいたら、話してくれる人はかなりいると思います。ワークショップみたいなのだったら、現役の学生さんにも参加してもらえるかも知れません。

萬木 ワークショップだと、福祉関係でもいろいろ集まってなんかやるということもできるかもしれないですね。

─ 職域同窓会には様々な可能性があると思います。しかし、何が求められているかは、同窓会本部では摑みかねます。そのため、実際に働いていらっしゃる方々からアイデアを出してくださると大変有り難いです。事例がたくさん集まってくると、「同窓会にはこんな形もあるんだ」とこちらも勉強になります。これからもぜひご意見を聞かせてください。本日は、お忙しいところありがとうございました。

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