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同窓通信

No.147(2022年)

善く生きるために学ぶ
溪 響
(近畿日本鉄道株式会社)

 ある日の勤務後、帰り支度をしようとするところで上司に呼び止められ、一枚の書類を渡された。わが母校大谷大学から同窓会報への寄稿の依頼であった。まさか自分がそんなものを書く日が来るとはつゆも思わず毎日を過ごしているので、どういったものを書けばよいのか悩んだ。内容は「在学時の活動等を通して現在の仕事や生活に活かせていること」とのこと。私の場合は何になるのか、ふと頭をよぎったのは第一学年の頃の人間学の講義である。

 必修科目であった人間学の講義で触れた言葉で、今もふと思い出す言葉がある。「善く生きるために学ぶ」。担当の藤元雅文先生がおもむろに板書した。善く生きるとはなんなのか。人と関わり自ら考え、そして人生において様々な選択肢を選び、生きていくために学ぶ。それが人間学なのではないだろうかと先生はつづけた。その時の私は分かったような分からないようなといった具合だったことを覚えている。

 大谷大学の卒業後に選んだ就職先は近畿日本鉄道。入社後様々な研修を終え、いよいよ制服を身にまとい、駅員としてお客様の前に立つ。毎日多くのお客様が駅をご利用される。私は制服を着ているのだからお客様とは駅員として接する。そこには入社3か月だからという免罪符はない。時にはご迷惑をおかけし、お叱りを受けたことも。

 現在は車掌として勤務しているが、駅員でも車掌でもご利用いただいているお客様に接して日々仕事をすることに変わりはない。大谷大学の学生の皆様をはじめ、 ひとりひとりのお客様にできる限り満足して近鉄をご利用いただくために自分は何をすべきか。日々の仕事を通して様々な発見がある。そしてその毎日が学びの場なのであると改めて実感する。

 そういった時にふとあの人間学の講義で聞いた「善く生きるために学ぶ」という言葉を思い出す。今の自分の生き方はどうであろうか、答えが出るものではないのかもしれない。しかし考え思いをめぐらせることもまた、あの時先生が伝えたかったことなのかもしれない。毎日の仕事のなかで新たな発見や学びをする、これもまた私にとって「善く生きるために学ぶ」人間学なのであろう。

(2017年度・文学部社会学科卒)
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