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大谷大学と私

No.148(2023年)

大谷大学と私
名誉教授  
石橋 義秀
大谷大学での学究生活 ~多屋頼俊先生の学恩を謝す~

 私が大谷大学文学部に入学したのは、1963年(昭和38年)4月です。4歳年上の兄・本明義渓は大谷大学で国文学を専攻し、多屋頼俊先生の厳しい指導を頂き、卒業後中学校に勤務していました。その兄から「いずれ住職を継ぐにしても、先ず教員を経験した方がいい。大谷大学には多屋頼俊という凄い先生がおられるから国文学を専攻し、教員免許と大谷派教師資格を取得すればよい。」と助言があり、それに従いました。

 多屋先生は、『歎異抄新註』『和讃史概説』『源氏物語の思想』等、数多くの業績があり、厳しい研究と教育で学内外に知られていました。入学後、稲葉秀賢・舟橋一哉・横超慧日先生等の授業を聴講し、さすがに伝統ある大学だと感服しました。第2学年から多屋先生の「国語学概論」等、国文学講義を中心に受講しました。厳しいが学識と人間味溢れる先生の講義に出会い、国文学専攻を決めました。第3学年演習「国文学研究史」では、古典文学作品の研究状況を専攻生が2人1組で順番に『万葉集』から作品ごとに研究室や図書館で調べて、発表資料を作成し報告するという授業でした。先生の熱心なご指導、更に研究室での優しい風貌に心ひかれ、10名ほどの専攻生と共に懸命に古典文学を学習しました。

 実は、その1年前に、岩波書店から日本古典文学大系『親鸞集 日蓮集』が出版され、多屋先生は「親鸞消息・歎異抄」の執筆を担当されました。先生は、長年にわたって研究してこられた成果を古典文学大系本に収録される際、更に心血を注いでその研究を集大成されました。当時は、多屋先生がそのような偉大な学者だとは知らずにおりました。先生は国文学の知識に乏しい専攻生に古典文学の研究状況や研究法について丁寧にご指導くださいました。また国文学研究室でも仏教文学について、資料を広げて熱く語られました。

 多屋先生は、常に「大谷大学の国文学は、他大学の国文学と異なり、真宗・仏教を根底にした国文学でなければならない」と言われました。

 大谷大学国文学の先輩方(渡辺貞麿先生や片岡了先生)は「研究の道に進んだのは偏に多屋先生のお陰であるから、偏依多屋一師である。」と「偏依善導一師」をもじって言われました。後輩の私も研究の道に進むことになったのは偏に多屋先生のお陰であり、多屋先生は生涯の師であります。

 私は国語教員を目指していましたが、多屋先生は大学院進学を勧めてくださいました。父住職の許可を得て、博士課程まで進学し、『今昔物語集』を中心に仏教文学研究を重ねて『国語と国文学』など学会誌に掲載頂き、幸いにも大谷大学国文学研究室助手に採用頂きました。爾来、専任講師・助教授を得て、定年退職まで教授として大谷大学に勤めることができ、大変有り難いことでした。

 80歳になり、過ぎ去りし方を振り返りますと、多屋先生は教え子のために、菩薩道を実践された稀有な方だと思います。私の場合は、多屋先生御所蔵『祖師一言法談』を定年退職1年前に影印・翻刻出版することができたこと、また約30年にわたって研究を重ねてまとめた『仏教説話論考』や『仏教文学論叢』などを公刊し、学会に寄与できたことは多屋先生のお陰です。さらに昨年11月、多屋頼俊先生33回忌法要記念誌『大悲無倦常照我』を出版し、先生の学恩に報いることができたことを深く感謝しています。

略 歴 紹 介

石橋 義秀(いしばし ぎしゅう) 名誉教授

1943(昭和18)年 8月 京都府に生まれる
1967(昭和42)年 3月 大谷大学文学部卒業(国文学)
1969(昭和44)年 3月 大谷大学大学院修士課程修了(仏教文化)
1972(昭和47)年 3月 大谷大学大学院博士後期課程満期退学
1972(昭和47)年 4月 大谷大学助手
1978(昭和53)年 4月 大谷大学専任講師
1984(昭和59)年 4月 大谷大学助教授
1992(平成 4)年 4月 大谷大学教授
2009(平成21)年 4月 大谷大学名誉教授
1992(平成 4)年10月~ 1994(平成 6)年 9月 大谷大学学生部長
2007(平成19)年 5月~ 2009(平成21)年 5月 大谷大学同窓会理事長
2017(平成29)年 5月~ 2021(令和 3)年 4月 大谷大学同窓会会長

【著 書】
『祖師一言法談 影印・翻刻・解題』(単著 文栄堂)
『仏教説話論考』(単著 文栄堂)
『仏教と文学』(単著 文栄堂)
『常照我-法話・随想集』(単著 文栄堂)
『仏教文学論叢』(単著 松香文庫)
『大悲無倦常照我―多屋頼俊先生 三十三回忌・記念誌―』
(単著 松香文庫)
その他

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