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輝く☆同窓生

No.149(2024年)

丁 邦治 さん
〈株式会社絆 代表取締役〉


北辺 佑智 さん
〈株式会社FUNE CEO代表取締役〉
インタビュアー
 無盡燈編集委員 上野 牧生(大谷大学准教授)  
対談日 2024年2月

「笑顔」を生み出す起業家へ
─心が変われば行動が変わる。活気あふれる職場づくり─

─ 今回の「輝く☆同窓生」に、お二人の同窓生にお越しいただきました。お二人は「起業家」であり、「就労継続支援事業所(※)」の運営をされているという共通点があります。今回は、大谷大学での学びや現在の仕事に生かされていること、今後の展望についてお話を伺いたいと思います。

 高校は野球部で甲子園に出場することができ、大谷大学でも野球をしながら「文学」を学ぼうと入学しました。学生時代、焼肉店のアルバイトでの接客が楽しかったので、卒業後は飲食店に就職しました。
 起業を意識したのは、就職先での愚痴を父親にこぼし、「愚痴を言うなら自分でやるべき」と叱咤された時です。
 その後、起業はできましたが、当初は「自分がやった方が早い」と社員に仕事を任せられず、社員が辞めたらその人のせいにするなど、うまくいかない時期が続きました。
 そんな中、私自身が変わったのは、「就労継続支援A型事業」を始めてからだと思います。2013年にお弁当のデリバリーを始め、業績は順調に伸びていった反面、育児を任せきりだった妻が体調を崩してしまいました。このままではいけないと思っていた時、ある経営者の方に障がいのある方たちがお弁当作りの仕事をされている事業所を紹介いただき、衝撃を受けたんです。そこから、誰かのために仕事がしたいと思い、2018年に「就労継続支援A型事業所」の「株式会社 絆」を立ち上げました。「自分のことばかり」から「相手のことを考える」ようになったのがこの頃です。

─ 障がいのある方を実際に雇用して、どのような変化があったのでしょうか?

 「自分の当たり前が相手の当たり前ではない」ということに気づき、相手の考えを受け入れ、自分の考えをどう伝え、理解してもらうかに注力するようになりました。
 また、社員や利用者さんへは他人と比べるのではなく、自分がどんな幸せな人生を送りたいのかというのを考えて欲しいと伝えるようにもなりました。理念やビジョンを語り続けていくと、徐々に変化してくださる方が出てきて、それが私の自信にもなりました。まずは自分が変われば周りも変わるのだと思います。これにより離職率も下がりましたが、より働きやすく、やりがいを感じる会社にしていきたいと考えています。

─ 自分の当り前が人の当り前ではないとはおもしろいですね。大谷大学で学ばれた内容が長い時間をかけて染み込んでいくような、まるで仏教のお話のようです。
続いて、北辺さんに伺います。

北辺 大谷大学の4年生の時、貧困の地域に興味があったのでミャンマーやベトナムなどのアジアを中心に旅をしました。そこでNPO法人の方にタイのコーヒープロジェクトを手伝って欲しいと声をかけられたことがありました。そこではすごくおいしいコーヒーが採れるのに売り方がわからない、それで悪質なバイヤーに買いたたかれる現状を何とかしたいとのことでした。興味はありましたが、その時は行動にはつながりませんでした。
 卒業後は生協に就職し、働いて2年目の頃、休暇をとって前述のNPO法人の方とタイに行ったのですが、その時、現地の方に「直接、豆を買って欲しい」とお願いされたんです。ふたたびコーヒーの件で声をかけていただいたので、「少し当たってみます」と帰国し、休みの度に色々なコーヒー屋さんを回りました。すると、想像以上に買ってもらうことができたんです。その後、小型の焙煎機をボーナスで買い、焙煎した豆を売れるものにしようと、この頃から起業を意識し始めました。

─ 学生時代から海外志向だったのですか?

北辺 東南アジアはたぶん全部行きました。発展途上の国にはエネルギーがあり、好きなんです。

─ ところで、北辺さんはコーヒー焙煎所「京都珈琲焙煎所 旅の音(ね)」を創業されていますが、当初はどのような状況だったのでしょうか?

北辺 創業当初は、簿記もアルバイトの雇い方もわからず、初めてのことばかりでお客さんも来ず、赤字続きで資金も減る一方。もうこれで終わりだという時、ある雑誌に取り上げてもらったことから、徐々に常連客も増え、なんとか黒字化することができました。

─ その後、「起業支援事業」を展開されていかれますが、障がいのある方の雇用についてはどのような接点があったのでしょうか。

北辺 2020年に「旅の音」を法人化し、採用も行うようになりました。障がいのある方からの問い合わせもありましたが、それまで福祉に馴染みがなく、お断りするケースがほとんどでした。そんな中、採用した方の中に耳に障がいのある方がいて、焙煎の仕事をしてもらったのですけれど、その方はすごく鼻が良いのです。それが強みになり活躍してくれて、「障がいのある自分が好きな仕事で働けるのは本当に夢みたいですよ」と言ってくれたのです。今まで断った方も皆そう思っていたのだろうなと衝撃をうけました。そこで私に何ができるかを考え、就労支援でコーヒーを扱っている全国の事業所を見て回ったんです。すると、生き生きしている事業所とそうでない事業所の差があることに気づきました。好きなことに関わり、環境が良いところは皆笑うのです。利用者さんも笑うし社員も笑っています。なので、自分たちもせっかくコーヒーという専門的な仕事をしているのだから「製造」とか「焙煎」、「バリスタ」など色々なセクションに分けて「好きな分野」で働ける仕組みを創れたらいいなと思って「就労支援B型事業所」の「たびのね」を始めました。

─ 今のお話を伺って、丁さんも共感される部分があるのではないですか?

 ありますね。A型とB型の違いはありますが、障がいのある方に対するケアや、その人の良いところを見つけるということは一緒だと思います。「好きなことを仕事にできる」ということ、そこが私たちの本当の支援なのかなと。

北辺 丁さんの「人との向き合い方が変わった」ということにすごく共感できました。これで「人になれた」というか、欲の塊が剥がれていく感覚を久々に感じました。

─ 「 人になれた」、おもしろいポイントですね。
仏教だと「貪欲」という悪い欲と「意欲」という良い意味の欲と分けるのですが、お二人ともやはり「意欲」がどんどん湧き出ている状態ですね。起業家の視点から見て、幸せな生き方とはどのような生き方でしょうか?

 私が思うのは「ありがとう」であったり、笑顔を見せてくれたり、私が楽しいからやっているのですが、社員や利用者さん、その親御さんから「ありがとう」や「本人が生き生きして仕事に行っています」ということを聞くと、やっていて良かった、これが私のやっていく仕事、私の幸せだと思っています。

─ 北辺さんはいかがですか?

北辺 丁さんの意見にリンクしますが、私の理念は「マイナスをプラスに」です。障がいや貧困など悩みや課題がある人に私の会社に入ってもらってプラスのスパイラルに乗ってもらえるような環境にしていきたいと思っています。それが実現した時がやって良かったなと感じるところで、「ありがとう」と返ってくるのです。「こんな感じに自分が変われるとは思わなかった」という声がもらえるのは嬉しいので今後もこれを軸にしていきたいと思います。

─ お二人とも「人が好き」という様子がよくわかります。お二人の在学時の大谷大学には「人間が大好きです。」というキャッチコピーがありました。学生時代のことをお伺いしたいと思います。


北辺さん卒業式の様子(前列左)

 毎日、大学は楽しかったです。指導教員は石橋義秀先生だったのですが、大学では野球しかしていませんでしたので、正直勉学は苦手で、先生には心配をかけました。
 私は人前で話すのも苦手だったのですが、先生からよくゼミの皆の前で話をするよう指導いただき、人前で話す経験を積むことで、今日のインタビューなどにも対応できるようになりました。今思うと、ジャージで野球部のカバンを枕に寝ていたりもしていたので、居眠りさせない目的で「何かしゃべって」と言われたのだろうと思います。
 あとは、死生観といいますか、もし私が明日にでも死んだとき、社員や利用者さんが路頭に迷わないようにしないといけないと思いながら仕事をしています。学生のときは理解できていなかった死生観が今になって生きているようです。

─ 北辺さんはいかがですか。

北辺 在学中はフォーク研究会に所属し、3年生の時に部長をさせてもらいました。部員にはいろんなタイプの人がいて、問題が起きる度に耐性もつきましたし、多くのことを経験させてもらいました。
 ゼミに関しては、あまりまじめな学生ではなく、指導教員の川端泰幸先生からお叱りを受けたのはよく覚えています。私は実家が寺院なので、歴史学科の科目と真宗系の科目の両方を学ぶことができたのはとても貴重な経験でした。それまでも自坊でお勤めはしてきましたが、大学で経典や仏教の意味や歴史を深く学ぶことができたのは嬉しかったです。なのでインドやネパールの仏教が伝播した地域を旅するのも好きなんです。もっと歴史を学んでおけばと今になって思います。

─ 最後に、お二人が手掛けている会社・事業所の今後の展開に関してお聞かせください。

 私の会社は「就労継続支援A型」で障がいのある方たちの自立支援の事業をメインとしています。現在、事業所には35名の障がいのある方たちがおられますが、それぞれに支援の仕方が異なります。就労支援後に一般企業に就職したい方もいれば、身体が動く限りここで働きたいという方もおられます。その方の居場所作りを大切にしていきたいと考えています。起業当初はお弁当作りがメインで、お弁当作りが難しい方は辞めていくことがありましたが、このままでは何の取り柄もない会社になると思い、福祉らしくない会社を創りたいと考えました。そこで、社員や利用者さんがしたいことをヒアリングしてできた事業に「レジンアクセサリー」があります。趣味だったものを仕事として作り、売り方を私が考えるという話から始まりました。アクセサリーは催事や区役所などで販売し、同時にデザインが好きな方が名刺やチラシ作成をするようになりました。やりたいことや思いを事業にすることは経営者である私の仕事です。社員や利用者さんは好きだからスキルアップもしますし、生産性も収益も上がります。お金を儲けにいくのではなくてやりがいを作ることで収益があがるという仕組みができました。リフォーム事業やチラシのポスティングなど、みんなやりがいをもって「あなたたちの仕事には大切な意味がある」ということを伝えながらやっています。必要なことを事業にして、その方たちの喜びに変えていくということは、私はこれからも変わらないと思います。いろんな事業をやっているので、友達から「何屋をしているの」と言われることがありますが、「俺は福祉屋やで」と答えています。

─ 北辺さんはいかがですか。


滋賀銀行ビジネスモデルコンテスト
「野の花賞 特別賞」受賞式の様子

北辺 私自身も本当にコミットしたいところは福祉です。もう一つは「起業したい人」の成長を支援していくことです。
 これまでに私が経営に携わってきた就労支援施設は4か所ありますが、支援を必要としている会社や地域は沢山あります。加えて、仕事はあるけど人手不足で困っている、就労支援施設に興味があるけどやり方がわからないという方のために、2023年に「起業支援事業」と「B型支援施設のプロデュースと運営支援」を行う「株式会社FUNE(ふね)」を立ち上げました。起業のためのサポートを日本各地で行い、この縁をいろいろなところにつないでいきたいと思っています。
 また、「FUNE」では、インターン制度を設けていて、1年間のインターン後に1年間就職、その後に独立するというパッケージを作っています。合計2年間来てもらった方には、起業などの際に300万円を出資するなど、熱意のある人にはチャレンジする機会を作っていきたいと考えています。現在、インターンで2人が来てくれていますが、この2人が2年後に起業家として育っていってくれたらうれしいと思います。

─ これからますますお二人が活躍なさっていくということがわかる対談でしたし、大谷大学としてもお二人のような卒業生を持てたということは大きな誇りです。これからも大谷大学との縁を結んでいただきたいと感じています。長時間、ありがとうございました。

〈※就労継続支援事業〉
A型… 雇用契約を結び利用する福祉サービス(最低賃金が保障される)
B型… 雇用契約を結ばずに利用する福祉サービス
(労働時間の縛りがなく負担を少なくできる)
株式会社 絆

〒615-0057 京都市右京区西院東貝川町5
TEL:075-748-0022
ホームページ:https://kizuna2010.com/
主な事業内容:福祉事業(就労継続支援A型事業所)飲食事業

沿 革
2018年1月 株式会社絆設立
2018年12月 障がい福祉事業(就労継続支援A型事業所)開所
2019年1月 内職請負事業開始
2020年3月 ものづくり事業(レジン工房きずな)開始
2020年4月 スーパー惣菜製造・販売開始
2020年4月 リフォーム事業開始
2021年1月 ベビーカステラ専門店開店
2022年3月 農福連携への取り組み開始
2023年1月 就労支援A型事業所へのサポート支援開始
2023年12月 宿泊事業開始
株式会社 FUNE

〒602-8284 京都市上京区亀屋町60
TEL:0771-75-5125
ホームページ:https://fu-ne.co.jp/
主な事業内容ベンチャー・スタートアップの総合支援、福祉施設の運営及びコンサルティング、ブランディング・マーケティングの支援、デザイン

沿 革
2017年2月 珈琲焙煎所旅の音(たびのね)オープン
2019年    一坪の珈琲店「MAMEBACO」を2020年オープンしFCとして全国で4店舗展開
2020年    株式会社タビノネ設立
2021年    就労支援施設たびのね(就労継続支援B型事業所)開設
2022年10月 代表退任 顧問職就任
2023年1月 株式会社FUNE設立
2023年11月 起業家を支援する投資付きインターンシップ制度募集開始
2024年2月 滋賀銀行ビジネスモデルコンテスト野の花賞 特別賞受賞
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