無盡燈/尋源館
無盡燈ギャラリー

No.148(2023/8) 「加茂街道の松」

No.147

 大谷大学は環境に恵まれている。ショッピングセンターやバスのターミナル、地下鉄の駅も近い。しかし少し歩けば植物園があり、四季折々の花や木を見るのは楽しい。温室には南国の植物が沢山あり、見飽きることはない。温室を入り一つのコーナーを曲がり次のコーナーを曲がらない先に一本のインド菩提樹がある。それは釈尊成道の地ブッダガヤにある菩提樹の実生から育った木である。我が家では幾本も菩提樹を育てているが、晩秋から春までは室内に入れなければならない。気温が5度を下回ると寒さで枯れてしまう。もう20年も前に、大きくなりすぎたので植物園に寄贈したものである。DNAが由緒正しいものなので、喜んでもらってもらった。温室の天井に届き何度も切断されているが、ハート形の葉の緑は美しくまた大きい。この頃の学生は、滅多に植物園に行かないが、生きている植物を見て自然の妙を楽しんで欲しいと思う。
 大谷大学近くで歩いたり自転車で散策するのに良いのは鴨川沿いの加茂街道である。出町から北山までが特に良い。北大路から北山通の植物園側は「 半木 ( なからぎ ) の道」といって枝垂桜の並木で近年樹が大きくなり見事になった。北山橋の横には一本渋柿があり妙な風情がある。大学に一番近い紫明通の加茂街道のあたりは特に欅の大木が美しい。出雲路橋から出町にかけてはあまり目立つ木はない。松がちらほらとあるが、御所のような立派な松ではなく、それも、ブツブツと枝が切り落とされている。それがまたなんとも風情があり、一点、作品として描いた。松は常緑樹でいつも葉があるが、春の新芽や、古い葉が落ちる様を見ていると「、諸行無常」いつも同じ常態ではない、もの事は移り行くという仏教の基本を感じる。
 四季のある日本の自然の豊かさ、営みの深さを日々の小さな出来事の中に感じ、自然と共にある私を考える小さなヒントが身近にあることを教えられる。

畠中光享(1970年文学部卒)
日本画家・インド美術研究者


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